発売日にアマゾンに注文したら1週間かかると脅かされたが、けっきょく今日届いている。あてにならぬ発送予定日表示である。W:tFプレビューが終了したりW:tFがいまだに読み終わってなかったりそもそもその前に買った『Bloodlines: The Hidden』もファースト・インプレッションを書いてなかったり色々へたれているが気を取り直してリアルタイム更新いくよ。
W:tFとBloodlinesのレビューはもうちょっと待ってください。
【装丁と挿絵】
Wraith: The Oblivion初版を初めて見たときの感動を思いだしてしまった。V:tRのことを何も知らずに店頭で見かけたとしても、思わず表紙買いしたかもしれない。
第一印象は「くっきりシャープ」。表紙はロゴ部分ツヤあり、イラスト部分ツヤ消しといういつもの加工なのだが、この本に関してはそれが非常に効果的にはたらいている。胸に血で十字架を描いた裸の男が両腕を高々と差し上げている絵の、指の部分がタイトルロゴの隅に微妙に重なっていて、つや消し加工の指とつや出し加工のロゴの対比が絶妙な立体感を生んでいるのだ。World of Darknessロゴの背景をよく見るとLanceaのシンボルマークの一部である髑髏が薄く敷き詰められていたり、「Vampire」のロゴが鮮やかな朱色に変更されていたり、デザイン上の細かい配慮が感じられる装丁になっている。
装丁面でもう一つ特記すべきはPrologue(巻頭小説)部分。ここだけザラッとした厚めの茶色の紙で中世の手写本風になっている。カリグラフィ風の書体を使ったり、イラストも木版画調にしたり、と、ここでも芸が細かい。新WoDはどの製品もなにかしら装丁に工夫を凝らしているので次の製品を買うのが楽しみになる。
挿絵は点数こそ少なめだが、穴埋めのためだけに置いてあるような屑イラストを見かけないのがすばらしい。画風はけっこうばらばらで読者によって好みが分かれるかもしれない。
アートディレクターはPauline Benny。
【Prologue: Faithful Service】
珍しく著者名表記があると思ったら、V:tR小説を手がけるGreg Stolzeだ。先にいったように中世の手写本風デザインなのだが、話そのものはどうやら現代らしい。いきなりショットガンやらTシャツやらの話題が出るし、公式NPCSolomon Birchも登場するのでものすごい違和感である。とはいえこれも、「中世の装いをまとった現代」という、Lancea Sancutumの象徴と解釈できなくもない。
まったくの余談だが、目次ではなぜか題名が「Prelude」になっている。
【Introduction: Rejoice, for Thou Art Damned!】
本書の概要、テーマとムード、用語集、各章の内容説明。どのWoDサプリメントにほぼ必ずといっていいほどついてくる「いつものやつ」である。ただ、テーマやムードを表現するキーワードを提示してこないのがいつもと違うところ。
Listen to Ave Maria alone on a dark winter's night, the snow falling as if it were the silent hand of God wiping the world clean.
冬の夜更け、降りしきる雪がまるで世界を音もなく拭い浄める神の手を想わせる、そんな晩に独りでアヴェ・マリアに耳傾けている。—— p. 23, 「Mood」より
という風に、想像をかきたてる思わせぶりな文章が並んでいる。
p.25「How to Use This Book」は、WoDの英語版サプリメントを見慣れている人には説明するまでもなかろうが各章の内容説明。ちなみにp.24〜p.25はサンプルとしてPDF版が無料ダウンロードできる。
p. 25〜27「Lexicon」が用語集になっている。予想通りというか、予想を上回るというか、キリスト教の抹香臭い香り漂う用語が満載である。Inquisitor(異端審問官)、The Rule of Golgotha(ゴルゴタ法典)、Black Saints(闇聖人)……V:tMで『ノド書』や『The Erciyes Fragments』が好きだという人や、サバトのキリスト教っぽさが気に入っているという人は、このページを見るだけでおおいに想像が膨らむだろう。
天使も出るよ。
【Chapter 1: The History of the Lancea Sanctum】
p.30〜40がLancea Sanctumの歴史について。ロンギヌスの槍や天使といった伝奇的な要素も登場するが荒唐無稽に走ることもなく、V:tMのように人間社会の出来事をなんでもかんでもヴァンパイアの仕業としてしょいこんでしまうようなこともなく、現代物TRPGの歴史設定として無理のない、使いやすい設定になっている。
ものすごく乱暴にまとめると、Lancea Sanctumの創始者は十字架上のキリストを槍で突いた百人隊長ロンギヌス(Longinus)である。彼は神の子の血を唇に受けたために呪われてヴァンパイアとなった。その後、キリストが蘇ったという噂を聞き、本当かどうか確かめようとキリストの墓を訪れる。すると大天使Vahishtael(ヴァヒシュタエル)が現れ、ヴァンパイアとは、神が人類に罪の報いのなんたるかを知らしめるために地上へ生ぜしめた「選ばれし呪われた民」である、と啓示を伝える。
自らの存在意義を知ったロンギヌスは喜び、この啓示を他のヴァンパイアにも伝えようとしたが、生前無学で嫌われ者の男だったから途方に暮れてしまった。そこで弁の立つ学者Monachus(「修道士」)を〈抱擁〉し、彼から学問を教わるいっぽう、彼に神の啓示を説いた。やがてお互いに学ぶべきものは学んだと考えた二人は別れ、ロンギヌスは荒野に去り、Monachusは伝道の旅に出る。
Monachusはロンギヌスの教えをThe Testament of Longinusとして書物にまとめるいっぽう、自らも5人を〈抱擁〉して弟子とし(後にThe Five Martyrs(五殉教者)として知られるようになる)、エルサレムで布教活動を始める。彼らが最初のミサを行った紀元232年がLancea Sanctum誕生の年とされる。しかしローマを牛耳るCamarillaのヴァンパイアたちに迫害され、テーベに逃れた。そこでファラオの墳墓を地下礼拝堂として密かに活動していたが、そこへ天使Amoniel(アモニエル)が降臨し、彼らを地下洞窟へ導いた。そこには壁一面にヒエログリフでびっしりと魔術の秘儀が記されていた。Lanceaが使用する儀式魔術がTheban Sorceryと呼ばれる理由がこれだ。
迫害をうけ多数の殉教者を出しながらもLancea Sanctum自体は常に生きのこり、中世にはInvictusと結託し、ロンギヌスの聖槍を安置したThe Black Abbeyを中心として欧州全土に広がる。だが947年、Monachusが弟子の裏切りに遭って滅び、The Black Abbeyは炎上、聖槍は混乱の中で行方知れずになる。
18世紀になると、メキシコにロンギヌスが現れたというまことしやかな噂が流布したのを機に、Lancea Sanctumの本格的なアメリカ進出が始まる。当初は旧大陸で権力を握っていたLanceaの進出を快く思っていなかったアメリカのヴァンパイアたちだが、若い血族の説教師が率いる新宗派が大受けして爆発的に改宗者が増え……現代のアメリカはヨーロッパに次いでLancea勢力の強い土地になったという。
コアルールやデモクロニクルを読むとどうも「Lancea Sanctum=カトリック教会」という印象が強いのだが、本書を読むとカトリックというより「もうひとつのキリスト教」という書かれかたをしている。人間が築きあげたキリスト教を「実はそれは血族の……」と手柄を奪ってしまうのではなく、人間社会の大きな出来事の影響を受けながらもあくまで「ヴァンパイアの、ヴァンパイアによる、ヴァンパイアのための宗教」として独自の発展をとげていくあたりが、WoD2.0ならではのアプローチといえるかもしれない。
独自の発展といっても、実際のキリスト教会史をうまくとりこんで「キリスト教っぽさ」は十二分に出している。ローマ時代の迫害、12使徒ならぬMonachusとThe Five Martyrsの伝道と殉教、失われたロンギヌスの槍、世俗権力(≒Invictus)と結びついて自らも権力を得ていく様、異端審問、宗教改革や宗派分裂、新大陸への進出……教会史やキリスト教の各宗派について簡単な知識があれば、随所で「ははぁ、これは◯◯のパロディだな」とにやにやできることうけあい。もちろん、何も知らなくても想像を拡げるにはまったくもって困らないのだが。
p.42〜46が、現代の世界各地におけるLancea Sanctumの活動状況。北米、中南米、欧州、アフリカ、中東、アジア、と6つの地域に分けての紹介である。
本書で初めて導入される「Creed(covenant内派閥)」がたいした説明もなくバンバン出てくるので(名前だけはp.39に出てくるが)、先にp.59〜64の「The Creeds」をざっと読んでおくことをお勧めする。
読むとLancea Sanctumの奥深さが300%(当社比)に
なるので損はしないはずだ。
というのも、コアルールを見るかぎり「カトリック担当」のようにみえるLancea Sanctumが、Creedの導入によってイスラム教やユダヤ教もまとめて面倒見ちゃう「一神教担当」になるからだ。
CreedとはLancea Sanctumの内部派閥で、まあ宗派だと思っておけばおおむねまちがいない。
(更新続く)
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