骰子回転劇場・転|日記: レビュー『Hunting Ground: The Rockies』
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骰子回転劇場 日記

レビュー『Hunting Ground: The Rockies』

これは何の本?

本書は『Werewolf: The Forsaken』(以下W:tF)のサプリメント第1弾で、米国コロラド州のデンバー市を中心としたロッキー山脈地方を舞台にゲームをするための地域設定資料集だ。

正確にいえば、ロッキー地方の設定と主要NPCの一部はすでにW:tF巻末に掲載されているので、本書の設定はそれを拡張する形になる。

Prologue: Bushwhaked (p.2)

『Werewolf: The Forsaken』310ページに登場するサンプルキャラクター、Moriartyを主人公に据えた短編小説。女ヴァンパイアにこてんぱんに叩きのめされる話なのだが、敗北を美化せず、情け容赦なく、惨めに描き出しているあたり、ある意味「滅びの美学」のゲームだったWerewolf: The Apocalypseとは違うのだなあと感慨深い。

叩きのめされるか叩きのめすかの違いはあるが、お蔵入りしてしまったW:tF小説『Heart of The Hunter』で最初に登場する敵役も女ヴァンパイアだったから、正直なところ「またか」という感は否めない。W:tFにはせっかくAzluBeshiluといった独自の敵役がいるのだから、そちらが登場する話を読みたいものだ。

ストーリーはMoriartyが瀕死の重傷を負う場面で終わっており、不吉な未来を暗示しながらも結末ははっきり描かれない。これはMoriartyをPCやNPCとして利用しようとするユーザーをメタプロットで束縛しないための配慮だろう。あえて以後の展開を読者の想像にゆだねることによって、この短編はストーリーフックとしても利用できる「二度美味しい」仕掛けになっている。

Introduction (p.10)

見開き2ページのみの潔い前置き。WoDサプリメント冒頭の「いつものやつ」、すなわち章別の概要・本書のテーマ&ムード・参考資料が載っている。必要な情報がページをめくらずに手に入る簡潔さはかなり快感。WoDサプリメントで「あれはどのへんに載ってたっけ?」と探すとき、目次や索引をあたるよりHow To Use This Bookセクションの各章概要を見るほうが往々にして効率的だからだ。

p.11 Useful Resourceが参考資料リストだが、書籍のほかWebサイトがいくつか挙がっている。年々変化する街の最新事情をとらえるには確かに早くて安上がりだし、市や観光当局、大学の公式サイトなど比較的信頼性の高いソースが厳選されているのはうれしい。

ちなみに・Native American Resources:のいちばん最初、http://www.colorado.edu/csilw/arapahoproject/ は、今年3月にhttp://www.colorado.edu/csilw/newarapproj2.htmに移転している。

Chapter One: Time And Place (p.12)

p.14〜20はデンバー市を中心としたコロラド地方の略史。メタプロットを排したWoD2.0世界では無味乾燥な章になるのではと心配していたが、蓋を開けてみればなかなかどうしてネタの宝庫だ。各時代の主要な史実をとりあげて「実はワーウルフの仕業であった」と強引にこじつけるのではなく、「そういう時代だったのでワーウルフたちはこんなことをした」という描き方にはとても好感が持てる。設定に無理がないうえ、このゲーム世界の主人公はワーウルフだということが素直に伝わってくるのだ。またp.15 War with the Utesでは先住民Uratha対入植者Urathaの抗争に触れつつも、「Urathaには同族を犠牲にしてまで人間を守る義理はない」「イデオロギーではなくテリトリーをめぐる争いであった」と明言しているあたり、tribeに民族色を持ちこまない毅然たる姿勢が感じられる。

W:tAのような神話や伝説への言及は皆無なのでガルゥ愛好家には物足りないかもしれない。ただW:tAが現代より神話時代の描写に詳しいのとは対照的に、この略史は現代へ近づくほど詳細になり、コロラドの現状に多大な影響を及ぼしたGurdilag討伐戦にもっとも紙数を割いている。そのため、過去から現在まで6ページ半と、記憶力と疲れ目と慌てるSTの負担にならない優しい分量でありながら、ただの読み物に終わらない資料価値を持っている。

さらに囲み記事として各時代を題材としたストーリーフックが登場する。どれも過去の因果が現代に報い……という話なので、これらを使うだけのために「Stone Ages: Werewolf」だの「Uratha: Wild West」だのをひねり出す手間もいらない。もちろん手間をいとわないSTならここの記述をもとに過去の時代を舞台にしたゲームをやっても面白いだろう。個人的にはp.15 War on Wolvesあたりのシナリオ化に挑戦してみたい。

p.20 Points of Entry〜p.25 The Wolf-Bloodedは、PCを本書の設定に導入するためのST向けのガイドラインだ。最初の変身を迎えたUrathaが、地元のワーウルフにどう扱われ、どのようにして各tribeに参入し、パックを組み、なわばりを確保し、一人前にやっていくのかが詳しく説明されている。とりあえず基本ルールで作りたてのPCで、デンバーを舞台にキャンペーンをやってみようと考えている人は必読。

p.25〜29 Geographyがコロラドの地理の解説、というか、ワーウルフにとっての重要スポットの紹介。ワーウルフにとっての暮らしやすさやテリトリー価値についての解説が主体で、地理や風土に関する基本情報は概説すらない。そういうものは観光ガイドなり地図なりWebサイトなりで最新情報をあたってくれ、ということらしい。ちょっとした観光ガイド並みの詳しさを誇った『Chicago by Night』などを記憶する身には寂しいかぎりだが、現実の情報は風化することを考えれば合理的だろう。

ここにはコロラドならではの風物に関するシナリオフックが6種類登場するが、デンバーで一番人気のテリトリーの領有権を争う天下一武道会風の Contendersには笑ってしまった。

Chapter Two: Tribes Of The Moon (p.30)

本書の目玉、コロラド地方にテリトリーを構えるパックの大紹介。11のパック、44人のForsaken、10箇所のlocus、10体のパック・トーテム、すべてNPCとしてもPCとしても使える完全なデータつき。PCたちのパックが新規参入する余地もむろん用意されている。

各パックは他のパックに対してきちんと自分の意見を持っており、金や義理やイデオロギーで互いに協力しているところもある。といっても全部が全部つながっているわけではないので、一部だけ登場させても大丈夫だ。11種類も出したって把握できないよと思った人もご安心あれ。

さらには全パックに2通りずつのシナリオフックが用意され、敵として登場する場合と味方として登場する場合でがらりと異なる顔を見せてくれる。もう食べられませんおなかいっぱいです。

そうそうたる頭数を揃えながらどれひとつとして似通った設定がなく、パックごと、個人ごと、locusごと、トーテムごとに豊かな個性を持っているのが恐ろしい。いやはや、まったく、よくもまあ、これだけ多彩な設定をひねりだしたものだ。

惜しむらくは、『Werewolf: The Forsaken』巻末に掲載されたキャラクターが再録されていないため、一つのパック全員のデータを見比べようと思うとWtFと本書両方を行ったり来たりしなければならないことか。

Chapter Three: The Spine Of The World (p.72)

コロラド地方のShadow Realm側の情勢を解説する。精霊界側にどんな精霊の勢力が存在し、何を企み、どのように活動しているか、またその結果物質界へいかなる影響を及ぼしているか、という話が主体だ。欲をいえば、精霊界側がUrathaの目にはどう見えているのか、といった五感に訴える具体的描写があればありがたかったのだが……多彩なシナリオフックと敵役精霊のアイデアを提供してくれるだけでもよしとすべきだろう。

p.74  Urban Warfare〜p.85 On the Roadまでが市街地篇。デンバーのGurdilag戦争の経緯が精霊界の視点から語られる。p.16 Gurdilag〜p.20 The Presentと対になる内容なので、併せて読むと事件の全貌が見えてくる。すでにGurdilagは滅び戦争は過去のものとなっているが、禍根はハイブリッド精霊や心を壊されたUrathaといった形でいまも各地に残り、PCたちには手強い獲物、STには手頃なネタを提供してくれる。デンバー近郊の都市にも短い言及があり、特にボールダーの話は興味深い。争いもなく宿敵も寄りつかず、完璧すぎるほど平和な街——その裏に隠された理由(p.82)ときたら、まったくもって胸糞が悪くなる。

p.85 Wild Places〜p.93 Shadow World Tearsまでが野外篇。精霊界側でとくに興味深い場所や特殊な精霊種などを紹介する。やはり大自然に属するせいだろうか、神話や民間伝承的な匂いを漂わせているあたり、どことなくW:tAを彷彿として心和む。露骨なオマージュこそないが、Devil's Towerや人食い精霊など、WtAに登場したキーワードが随所に顔を出すのでマニアとしてはにやにやしてしまう。

p.85 Yellowstoneの、精霊The Lord of the PlainsとUrathaとの壮絶なかけひき、そしてバイソン生息数の増減にまつわる物語は、いろいろな意味でWtA以上にWtA的だ。

Chapter Four: Prey (p.94)

精霊以外の敵を集めた章。Pure Tribe、Bale Hound、Host、ワーウルフ・ハンターといった定番のほか、Gurdilagに心身を変異させられたミュータント・ワーウルフであるSu'ur、人間のGhostと人狼のGhost Childが融合した唯一無二の怪物The Bastard Son、ネクサス・クロウラーならぬNeighborhood Prowlerなどといったデンバー固有のモンスターも登場。おそらく都市ソースブックごとにこういった「ご当地モンスター」が載るのだろう。今後が楽しみだ。

すべてのモンスターにストーリーフックが付属し、背景設定も丹念に書き込まれていて想像をかきたてる。とりわけSu'urの「トーテム」には敵ながらほろりとさせられる。他の敵役もそれぞれに動機や思惑や理想をもってPCの前にたちふさがるのだが、「わけありの敵」にありがちな、同情を引こうとする下心が見え見えの設定がないので、PLとしても気持ちよく闘え、倒したときには充実感を感じられるにちがいない。

なにげないようでありがたいのは、Pure Tribe2パック、Su'urは1パック、それぞれトーテムも含めてメンバー全員の完全なデータが提供されていること。1体でもキャラクターを作ってみればわかることだが、パックを丸ごと一から作るのはなかなか骨が折れるのだ。

Chapter Five: Storytelling (p.122)

p.124 Tribal Affairs〜p.125 Storm Warningsはtribe間の対立、p.125 Spirit Matters〜p.128 The Riddenは精霊とのつきあいについて、p.128 Urban Legends〜p.130 Ski Resortsは都市伝説をシナリオに取り入れる手法について。

特に精霊とのつきあいに関する数節は、精霊をシナリオに登場させる際、「Urathaはこんなとき精霊をどう扱うのが普通なんだろう?」という様々な疑問に答えてくれる。むろんプレイヤーがそういうロールプレイをしなければならないと言っているわけではないが、STがシナリオを組む際にPCの出方を想定したり、W:tFの経験が少ないプレイヤーを誘導したりするには便利だろう。そういう意味ではPLの参考資料にもなる。

p.130〜141 Stalking Diseaseは1幕3場もののショートシナリオだ。一見しただけでは気づかないぐらい地味な扱いだが、作りはけっこう、いやかなり、いやたいへんに、丁寧だ。

WtA時代のWoD既成シナリオというとバグだらけだったり、後半はSTに丸投げの不親切構造だったり、そんなの判るわけないだろうと叫びたくなるほどシビアな一本道構造があるかと思えば、既存の世界設定を破壊しかねない無茶なボスが大活躍したり、と、どうもいい思い出がないのだが、 Stalking Diseaseはとても同じ会社が作ったとは思えないほど「きちんとしている」のである。

謎解きタイプのオーソドックスな内容で、とくにこのシナリオ専用にキャラクターを作らなくとも既存のキャラクターで始められるよういくつか導入パターンが用意されている。またWoDズレしたベテランプレイヤー対策、謎解きのテンションを維持するためのアドバイスなど、STへの配慮も怠りない。NPCとしてまたまた1パック分のキャラクターがトーテム付きの完全データで提供されているので、これだけ引っこ抜いてきてプレロールドPCにしたり、まったく違うシナリオを作ってしまうのも楽だろう。

個人的に好感をもったのは、ミッション達成した場合にPCが物質的見返り(ただし金銭ではない)を得られること。どうもWoDでは金や物の話をするのは無粋という雰囲気があったのだが、達成感だけでなく手ごたえのある報酬をかちとるというのは決して悪いことじゃない、そう思った。

装丁と挿絵

なんといってもWilliam O'Connor描く表紙の美しさは特筆すべきだろう。雪に覆われた夜明けの山嶺でUrathaたちが血みどろの死闘を繰り広げているのだが、その背後で明るむ空の清澄な青さは見るたびに心洗われる思いがする。アマゾンから届いた箱を開けて初めて実物と対面したときには、おもわず裏表紙の朝日を拝みたくなってしまったぐらいだ。

本文中のイラストは、点数こそ少なめだが、画風の似通ったものを厳選しているようで、全体的に統一されたイメージを醸し出している。

なんとも惜しいのは見返しの地図があまりに、あまりに、あまりに大ざっぱなことだろう。なにしろ見渡すかぎりの山の中にぽつぽつと本文に登場する都市が丸印で示されているだけで、道路はおろか州境さえ示されていないのだ。たしかに地図はインターネットを見ろと書いてあるし州境がゲーム中に問題になることはまずないだろうが、これはさすがに簡潔にしすぎ。

……で、買う?

W:tFにかぎらずWoDで困るのは、何でもやっていいと言われるとかえって何をやったらいいか困ってしまうことだ。W:tAはまだ長年蓄積された設定からインスピレーションを得ることもできたが、W:tFはまだ基本ルールが出たばかりで「これってアリなのかな?」と迷う人もいるだろう。

むろん何でもありの融通の高さがTRPGの身上とはいえ、フランス料理を出されればフランス料理らしく、日本料理が出れば日本料理らしく、恰好つけて粋な食い方をしてみたいと思うのも人情ではないか。

『Hunting Ground: The Rockies』が提供してくれるのは、いわばそういう「WtFの粋な食い方」である。型から入れというように、まずは付属シナリオをそのまま遊んでみるもよし、本文中のシナリオフックや敵データを使ってシナリオを作ってみるのもよし。俺は猿まねなどしないんだという御仁でも、バリエーション豊かな設定は自作シナリオを考えるのに絶好のたたき台になるだろう。

その多様性こそが最大の美点といってもいいかもしれない。WtAに長く親しんでいたり、基本ルールの概説を斜め読みしただけで済ませていると、とかく「これはこういうものだから」と決めつけがちだが、本書は出てくるlocusひとつとっても、最新鋭機器でいっぱいの基地あり街角の古本屋あり、うち捨てられた廃トレーラーありはたまた山奥の一本の木あり、ページを繰るごとに「ああ、こんなのがあってもいいんだ」と肩の凝る固定観念がほぐれていく。

逆にW:tAはやったことないがW:tFには興味がある、とりあえず遊んでみたいがどこから手を付けていいかわからない、という向きは、本書を見れば舞台設定からキャラクターから敵データからシナリオまで、すぐに遊べる素材がひととおり何でも揃う。できあいの素材にはちがいないが、本書の素材は下ごしらえに一切手抜きがない。

そのまま使えるしアレンジも楽しい、11のパック、44人のForsaken、10箇所のlocus、10体のパック・トーテム、3つの敵パック+6種類のモンスター、3つの都市設定とシナリオ1本——とどめに
65本のシナリオアイデア。

これがAmazon価格にして2600円弱で手に入ると思えば、コストパフォーマンスは相当に高い。飲み会1回控えても買う価値は充分にあるのではないか。

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World of Darkness に関する海外ニュースを Professor がときに適当な翻訳でお届け。名前が日記なのは骰子回転劇場・転の日記コーナーだった名残。実質上WoD2.0対応の回転劇場なので改名検討中。