ファーストインプレッションは細かくやりすぎて収拾がつかなくなったので、きっぱり書き直してレビューにした。それでも長くなったのは、例によって分厚いくせに索引がない本なので、レビューを頼りに現物を拾い読みできる程度に内容をフォローしようと思ったらあまり削れなかったからだ。それだけ盛り沢山の内容だということでご勘弁ねがいたい。
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“Heavenly Father, guide my aim as I serve as your Holy Spear, spilling the blood of the wicked in your name. Amen.”
「天にまします我らが父よ、我が手を導き汝の聖槍たる務めを遂げさせたまえ、汝の名において邪なる者の血を流させたまえ。アーメン」——『Lancea Sanctum』よりThe Hunter's Preyer (p.88)
本書は『Vampire: The Requiem』のサプリメントで、五大covenantのひとつであるランケア・サンクトゥム(Lancea Sanctum)を専門的にとりあげたcovenant sourcebook第一弾だ。
血族の教会というべきランケア・サンクトゥムの歴史、教義、組織、活動について徹底解説するほか、テーベ魔術(Theban Sorcery)や特殊Disciplineの追加データ、サンプルキャラクターを収録し、またランケアと縁の深い新たな枝族(bloodline)も紹介する。
シカゴのランケア・サンクトゥムを束ねる司教(bishop)の多忙な日々を描いた短編小説。著者Greg StolzeはV:tRのノベライズを手がけており、この短編でもV:tR小説シリーズの登場人物であるSolomon Birchが活躍する。
羊皮紙風の薄茶の紙使い、カリグラフィ風の書体、木版画調に加工した挿絵といった見かけの古めかしさとは裏腹に、内容は銃弾乱れ飛び革ジャケが血に染まるバリバリの現代物だ。ランケアの「中世の装いをまとった現代」というイメージを象徴するようなデザインである。
本文に使われている書体があまりに装飾的すぎて、読みづらいこときわまりないのが残念。結局PDF版のテキストをテキストエディタにコピーし書体を変えて、やっとのことで判読した。
本書の概要、テーマとムード、各章の内容紹介、用語集。公式サイトからp.24〜25のPDFサンプルがダウンロードできる。
p.24 The Home of the Lanceは基本ルールで説明されなかった「そもそもLancea Sanctumという言葉は何を意味するのか?」という疑問に答えている。なんとなくロンギヌスの槍のことと思いがちだが、そうではないというのだ。公式フォーラムでも議論になった話題なので、一読しておくと知ったかぶりプレイヤー対策になるかもしれない。同ページParishes and Domainsは、ランケア独特の言い回し「parish」の定義について。
p.25 Lexiconは、ランケア・サンクトゥム内で使われる用語集。見出しをざっと眺めただけでも、闇のメシア、黒修道院、ロンギヌス聖書……と、抹香臭さというかゴシック的雰囲気満点の言葉が勢揃いだ。V:tR開発当初「サバト」と呼ばれていた(!)covenantだけのことはある。
p.30〜41がランケア・サンクトゥムの歴史、p.42〜p.47が世界各地における現状。
前半は、教祖ロンギヌスの遍歴から聖典編纂者モナクスの宣教、テーベ魔術(Theban Sorcery)の発見、各Creed(宗派)の誕生、新大陸進出から現在にいたるまでを綴る。ロンギヌスの槍や天使といった伝奇的要素も登場するが荒唐無稽に走ることもなく、説得力のある背景史になっている。ランケア草創期に活躍したヴァンパイアはすべて滅びたか失踪したかのどちらかで、V:tMにおけるメトセラ的存在がひとりも出てこないあたりは、いかにもWoD2.0らしい。
ランケア・サンクトゥムは由来が由来だけにカトリック的な雰囲気が色濃く漂うが、実際にはもっと懐が深い。人間社会のキリスト教会の盛衰を歪んだ鏡のように映しながらも、あくまでヴァンパイアの、ヴァンパイアによる、ヴァンパイアのためのキリスト教として独自の発展をとげ、あげくにイスラム教やユダヤ教までCreedとして呑みこんでしまったからだ。厳密にいえば「血族のキリスト教」というより「血族の一神教」と呼ぶべきなのかもしれない。
とはいえその歴史には現実のキリスト教会史が巧妙に溶けこんでおり、ローマの迫害、使徒の伝道と殉教、失われた聖槍、世俗権力との対立、異端審問、宗教改革や宗派分裂……と、随所で「ははぁ、これは◯◯のパロディだな」とにやにやさせられることうけあいだ。
後半は世界各地のランケア・サンクトゥムが、現地事情に合わせて活動や教義をどのように変えていったか。Creedについて頻繁に言及されるので、先にp.59〜64 The Creedsを読んだほうがわかりやすいかもしれない。相変わらず日本も中国もインドも東南アジアも十把一絡げの列強植民地扱いだが、とりたてて親日家でもないアメリカ人の認識などまあこんなものなのかもしれない。むしろ『Kindred of the East』のようなアクの強い設定が出てこなかったことにほっとした。
p.50〜はランケア・サンクトゥムの教義解説。二大聖典であるThe Testament of LonguinusとThe Sanguineous Catechismの内容が主だが、聖典自体にどう書いてあるかには一言も触れず、構成や内容や表現の分析という体裁でひたすら間接的な言及にとどめているのが逆に想像をかきたてる。ところどころ矛盾や欠落、現代では古めかしすぎて顧みられない部分、中世とは異なる解釈をとっている部分などの指摘があるのも変にリアルだ。『Rites of the Dragon』の例もあるので今後フィクションとして出版される可能性は考えられるが、このままずっと想像の余地を残しておいてほしい気もする。
p.59 The Creeds〜はCreed各派の紹介。カトリック的正統派のMonachal Creedをはじめキリスト教の宗派を反映したものが中心だが、聖典をイスラム教の文脈で解釈するIblic Creed、ユダヤ教徒をとりこむDammitic Creedといった非キリスト教Creedも登場する。異端Creedの例として、ランケア版聖母崇拝Livian Herecyとクー・クラックス・クランばりのCrimson Cavalryが挙げられている。
p.64 Titles and Offices〜はヒエラルキーと役職の解説。各役職を得るのに最低限必要なCovenant Status (Lancea Sanctum)のドット数が示されていて、誰が誰より偉いのか、どの程度重みのあるポストなのかがわかりやすい。1ドット前後の役職はけっこう多く、またlay position(在俗)といって比較的戒律のゆるやかな地位もあるので、PCへの報酬にしてもおもしろそうだ。後々その役職の仕事をシナリオネタにもできる。
カトリック教会とよく似た階級構造を持つとはいえ、ランケア・サンクトゥムに教皇はいない。汎世界的な組織を作りあげているわけでもない。上下関係は原則として一つの都市内で完結し、ある街の揉め事に「どこかよそにいるもっと偉い奴」が横槍を入れる、という事態を考えなくてもいいよう配慮した設定になっている。そのためランケアにおけるBishopやArchbishop、Cardinalは、カトリックの司教や大司教、枢機卿のイメージとだいぶ異なる点には注意が必要だろう。
p.72 Clan Roles in the Lancea Sanctum〜はランケア内における各Clanの役割。併せてそのClanの血族がランケアに入信する動機や、Creed選びの傾向などにも触れている。
p.77 Lancea Sanctum Ritae〜はランケアが行う大小の儀式(Ritae)。改まったApostolicaと日常的なEcclesiaに大別される。Apostolicaはミサや告解、四旬節といったカトリック由来の儀式が中心で、ときに残酷ながらも抑制の効いた印象だ。参加者にちょっとした特典(Willpower回復、一時的な判定ボーナスなど)を与えるオプションルールもあるが、採用する前にp.78囲み記事の警告は読んでおくべきだろう。レビュー冒頭に引いたThe Hunter's Preyer はEcclesia儀式のひとつで、ランケア信者が狩りにでかける前に呟く祈りだが、たった2行の短さなのでPCの日常のロールプレイにさりげなく織り込んでみたくなる。
p.89 Domain Politics〜はかつてInvictusと並ぶ権勢を誇ったランケアの、現在の権力観について。
Neonate篇(p.96〜)、Ancilla篇(p.115〜)、Elder篇(p.128〜)に分け、各世代の血族がランケアのどこに惹かれて入信するのか、信徒になるとどういう義務や責任があるのか、他の世代にどんな態度で接するか、またそれが歳を経るにつれどのように変化していくかを考察する。
特にプレイヤー・キャラクターになることが多いneonateには20ページも割いて、布教や入信の過程、勧誘に使われる理屈、ランケアにとってneonateが象徴する意味に到るまで徹底的に解説している。これでイメージが湧かないとは言わせない、といわんばかり読み応えある情報量だ。
またancilla、elderについてもその世代ならではの役割を示し、彼らも血族社会の責任ある一員なのだということを改めて実感させてくれる。血族の長老と聞くとどうも「ありあまる暇をかけひきや陰謀に費やしている偏執狂の怪物」というイメージしか浮かばない、という向きには一読を勧めたい。
p.135 Relations with the World of Darkness〜は、他のコヴナント、ワーウルフ、メイジに対するランケアの基本姿勢。
p.144〜166はランケア内部に存在する各faction(党派)の紹介。Creedが人間の宗教でいうカトリックやプロテスタントのくくりだとすると、factionはその中でもさらに原理派、穏健派、改革派、保守派……と細分化された小集団を示すようだ。いささか不穏当な例えを使うなら、イスラム教シーア派の過激派グループ「アラーの鷹」なる集団がいたとしよう。「イスラム教シーア派」の部分がCreed、「過激派グループ『アラーの鷹』」の部分がfactionにあたる。
この章はえらくわかりづらい構成になっている。p.145〜154 Major Factionsに登場するHardliners、Unifiers、Neo-Reformistsは、実はfactionそのものではなく、数あるfactionの思想傾向を5つに分類した「タイプ」のうちの3つだ。3つしかないのにステレオタイプの項には5つ出てくるから混乱するが、残るMendicants、Procelytizersはp.154 Example Factions以降に説明がある。項目名が Mendicants: The Nepheshimというのは、Mendicantsに分類されるfactionの一例として、ここではThe Nepheshimというfactionを紹介しますよ、どうぞSTの叩き台に使ってください、という意味である。p.161のProselytizers: The Messengers of Longinusも同じ。
p.167以降がランケア・サンクトゥムに縁の深い新bloodline(枝族)。神が認めた血族の支配者を自認するIcarians、死の研究にとりつかれた隠者Osites、現代の鞭打ち行者Mortifiers of the Fleshの3つが追加されたが、実はもうひとつ、隠れキャラ的枝族がp.160 Nepheshim as Bloodlineにちらりと出てくる。
p.178〜185が追加Discipline。Icarian用のConstanceは、わずかなVitaeでResolveとWillpowerをはねあげるのでアンバランスに強く見えるが、IcarianはWillpowerがなかなか回復しない欠陥を抱えているので実は収支がつりあっている。Osites用のMement Moriは、幽霊が見えたり死人に口をきかせたりする、V:tMの《死霊術/Necromancy》っぽい能力だ。
Nahdadはp.160の「隠れ枝族」Nepheshim bloodline用。きわめて地味だがサバイバルにはきわめて重宝な術で、断食と放浪を続ける彼らにはぴったりといえよう。
だが最も個性的なのはMortifier用のScorgeだ。
自分を激しく鞭打ち→贖罪してすっきりしたのでWillpower回復
とか、苦痛=負傷ペナルティを肩代わりしたり押しつけたりするとか、この枝族の特徴にこだわりながらもゲーム上ちゃんと利用価値のあるパワーになっている。
p.186〜205はテーベ魔術について。そもそもこれは何なのか、というところから始まって、ゲームシステム上の各能力値との関係、新しい術法の発見や習得といったかなり突っ込んだ話にも触れている。
だが本書で最も有用なページはやはりp.195 Theban Sorcery Overviewだろう。なにげないサマリに見えるが、実はV:tR基本ルールで不明瞭だった記述を書き直した改訂版で、V:tR基本ルールも増刷分からはここの記述に合わせて訂正が入るそうだ。といってもどれが初版でどれが増刷かなんて見た目ではわからないし、そもそも数ページの改訂のために基本ルールを買い直すというのも不経済だから、結局、本書を買うのが建設的ということになる。
どうせV:tR本体と同じ値段だしな。
基本的に汎用NPCとして、STの急場しのぎやNPC作りのたたき台に使われることを想定した作りのようだ。背景設定はQuote(象徴的な台詞)、Background(経歴)、Description(外見)、Storytelling Hints(演出上の要点)が簡潔に書かれているのみ。そのぶん大司教から異端者から少数派Creedの信者まで幅広くカバーしている。『WoD: Antagonists』や『Hunting Ground: Rockies』の、背景設定だけでご飯3杯、もといシナリオ3本は書けそうな個性派NPCもいいが、こちらは別の意味で実用性が高そうだ。
表紙の凝ったデザインがひときわ目を惹く。胸に血で十字架を描いた裸の男が両腕を高々と差し上げている絵の、指の部分がタイトルロゴの隅に微妙に重なっていて、つや消し加工の指とつや出し加工のロゴの対比が絶妙な立体感を生んでいるのだ。他にもWorld of Darknessロゴの背景にLanceaのシンボルマークの一部が薄く敷き詰められていたり、Vampireロゴの色が鮮やかな朱に変えてあったり、背表紙下にcovenantマークが小さくあしらわれていたり、と細部まで神経が行き届いている。
挿絵は画風がかなりばらばらで好き嫌いのわかれるところ。
もしあなたが、以下にひとつでも思いあたることがあるなら、悪いことはいわない、とりあえず買っておいたほうがいい。
こうした需要に応える「ツールボックス」が本書である。膨大な設定のバリエーションが用意されているが、都合の良い部分だけ引き抜いてきて使っても破綻が生じないようになっているし、そもそもそういう使い方を想定して作られている。
ひとつの物を作るのに、道具箱の道具を全部使う必要はない。これはV:tRの元ディベロッパーJustin Achilliも、現ディベロッパーWill Hindmarchも、繰り返し述べていることだ。
だから、総計220ページのかなり分厚いサプリメントとはいえ、全部読まないと使えない、なんてことはない。とりあえず興味のある章節だけ拾い読みするのもありだろう。率直に言って読みにくい部分もあることだし。
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