Werewolf: The Forsaken の敵役クリーチャーのうち、特に精霊界の住人をとりあげた拡張サプリメント。Spirit(精霊)、Spirit-Ridden(精霊に憑依された生物)、Host(古代妖怪の分身)に加え、そのいずれでもない太古の怪物 ancient horrors が新登場。Spirit-Ridden/Host の作成ルールが追加される他、精霊界の住人を絡めたストーリーテリングについて、ST への指針を掲載する。
乱暴にいえば「W:tF モンスターマニュアル・精霊界編」とでもいうところか。
自傷行為を繰り返す少女とその養父母である Uratha を襲う悲劇。Spirit-Ridden と Azlu が登場し、いよいよW:tFの本領発揮という感がある。精霊に思考まで侵蝕され、養父母を「守護者の牡・牝」としか認識できなくなった少女の最期は悲壮というよりほかない。モダンホラー風の救いのない幕開けである。
珍しく長い序文がめだつ。本書には敵役として使えるサンプルキャラクターが多数登場するが、それを PC の経験値を上げるためだけにそのへんをうろうろして狩られるのを待っているヤラレ役のように扱ってほしくはない、というのだ。実際、うかうかしていると逆にPCをとって喰いかねない曲者ぞろいではある。本書が Predators(捕食獣)と題されているのは、こいつらはワーウルフを狩る者でもあるんだぞ、という含みかもしれない。
ワーウルフを狩るといえば Pure tribes だが、本書では割愛されたようだ。一冊丸ごと Pure 専用のサプリメントを作るからそれまで待ってくれ、とのこと。それだけではあんまりだと思ったのかどうか、基本ルールの範囲内でうまく Forsaken との差異を演出するTipsが p.10 What About The Pure?に紹介されている。
前半は精霊の概説とストーリーテリングの指針。精霊が何を考え、何を欲し、なぜ喰らい合うのか。なにかと敵対する彼らに Uratha が協力を求めるのはどんな時か。またその場合にどのように交渉すればよいか、を解説する。
総じて基本ルール p.265〜273 Spirits を追補する内容になっており、精霊の記憶や死生観にまつわる話が興味深い。精霊との交渉における具体的テクニックを解説する p.16〜18 Meeting with the Spirits は、かけひきをロールプレイで演出したいプレイヤーなら必見だ。いっぽうストーリーテラー要チェックなのは p.21 Manifestation。物質界にいる精霊の可視/不可視の扱いが若干変更されている。
後半は60種以上におよぶ精霊データ集。犬猫や四大元素といったお馴染みの顔ぶれも多いが、コンビニの精霊、無気力の精霊、データの精霊など、他ゲームではちょっと見かけないような類が大半を占める。さらには異質な精霊の融合から生まれるハイブリッド精霊というのもいて(例:車の精霊+苦痛の精霊=歩行者轢き殺しの精霊)、バラエティには事欠かない。
能力値は全体に Initiative や Defense 値が高く、力押しで倒すのは難しい。一対一でもかろうじて殴り殺せそうなのは Rank 1 どまり、中には Defense 12 なんて化物もいるから、ban を探り出すなり交渉に持ちこむなり頭を使わないと苦戦必至だ。
「掲載データと同じ種類の精霊だからといって能力値や ban をこの通りにしなくてもいい、むしろ変えろ」と随所で強調される。せっかく基本ルールブックに精霊の自作ルールがあるので、それを活用してほしい、という意図だろう。
精霊がSpirit-Urged/Claimed/Thiefとなる動機、憑代の選択基準、憑依後の変化などの解説。それぞれの憑依形態で「何ができるのか」「元に戻す方法」「憑代が死んだらどうなるか」については、p.78, 80, 83に明快なサマリがある。基本ルールで不明瞭なところが多かっただけにありがたい。
また Chapter One に出てくる精霊が取り憑いた場合に憑代がどのような異変を示すか、という例が p.101〜 Spirit Parasites に豊富に挙がっている。
参考資料にキングやクーンツの小説を挙げているだけあって、サンプルキャラクターもそのままモダンホラー小説に登場しそうなものばかりだ(火の精霊に憑かれた Firestarter だっている)。それらを使ったシナリオも1本付属する。
目玉は Spirit-Ridden キャラクターの作成ルールだ。Urged/Thief はモータル扱いだが、精霊が憑代と融合した Claimed は超常種族とみなされテンプレートを適用する。精霊の侵蝕度を示す Synthesis という専用特性値をもち、そこから算出した作成ポイントを支払って専用Aspectを購入することで腕を増やしたり毒を吐いてみたり、と能力をカスタマイズできる。侵蝕が進めば Synthesis が上がって Aspect を増やしたり強化したりできるが、そのぶん人間を装うのは難しくなる仕組み。
Host 各種族の起源や性質、寄生した人間に及ぼす影響、退治の方法、など。基本ルールの説明より格段に具体的な情報が増え、不気味さ百倍である。知られざる Host として蝗の Srizaku、鴉の Halaku、蛇の Razilu が追加された。
蜘蛛の Azlu、鼠の Bashilu にはキャラクター作成ルールがついた。精霊に似た能力値振り分け制だが、共食いによって進化成長する性質を、各個体に evolution point を持たせることで表現している。最も下等な個体だと1点しか持っていないが、共食いすると相手のevolution pointを吸収できる。これを支払ってAspectを購入することで上位形態に進化したり、特殊能力を得たりするシステムだ。
Aspectは種族ごとに独立したリストになっているので、適当にとっても「それらしい」格好がつく。プロローグに登場したAzluと同じ能力を再現できるAspectもちゃんと用意されているあたりは心憎い。
ラヴクラフトの引用で始まることがすべてを象徴している。はるかな昔、Father Wolfによって精霊界の奥地に追放された、精霊でもHostでもない文字通りのバケモノどもだ。
6体のhorrorが登場するが、正体について Option A・B と2種類の説明を用意していて、どちらを採用してもいいというのがおもしろい。能力値のほうは、純粋に数値だけ比較すると高ランクの精霊のほうが強いかな、とも思うが、盛り沢山のインチキな特殊能力はそれを補ってありあまる。まあ、V:tMで能力値に「勝てません」と書かれていたという伝説の長老よりは数値があるだけマシだろう。
WoD 製品のイラストは本文の内容に無関係なことが多いのだが、本書にかぎっては掲載の精霊や怪物をきちんとビジュアル化してくれているのがうれしい。Lune や Machingan Spirit に挿絵がついているのには正直感動してしまった。しかし最も強烈なのは p. 96の Living Succubus だと思う。夢に出てきたら泣くぞ。
本書はSamuel Araya など繊細で不気味な画風のイラストレーターで揃えたらしく、グロテスクが苦手な人にはつらいかもしれない。『Antagonists』や『Ghost Stories』のビジュアルが好き、という人には受けそうだ。
ちなみに表紙で意味ありげに立っているコウモリ男は内容と無関係です。
W:tF における主要な敵役はやはり精霊、Host、Ridden であり、基本ルールで不明瞭だったところ、イメージのわきにくいところを本書はみごとに補完してくれる。基本ルールですでに述べたことをくどくど再録したりはしていないので、まさに正しい意味での「サプリメント」である。迷わず「買い」と断言しよう。
ストーリーテラーにとって即戦力となるのはもちろんだが、プレイヤーも自分のPCが影界で相手にするのがどんな連中か知っておいて損はないだろう。へたに論述セクションを読むよりは、p.23〜 A Spirit Bestiary掲載のサンプルをたくさん見たほうがかえって雰囲気を把握しやすいかもしれない。
Host や Ridden の作成ルールは PC としての使用に立派に耐えうる造りになっていて、正直言うと NPC を作るのにここまで必要ないのではと思うほどだ。詳しい解説を読むほどにPCとして使ってみたい誘惑にかられる御仁もいるだろうが、Introduction で執筆陣が警告しているように、そういった使い方をするならST各自で調整が必要になるだろう。
とはいえ、「数値は適当に作ればいいと言われたって、どれぐらいが適当なのかわからないもんなあ」と日頃頭を悩ませているSTにとって、本書の作成ルールは時間こそかかるが変化に富んだNPCをあまりバランス面で迷わずに作れる、という点でありがたい存在になると思われる。
ストック・ナンバー:WW30300
定価:$29.99
ISBN:1-58846-326-5
ページ数:192
ディベロッパー:Ethan Skemp
執筆者:Aaron Dembski-Bowden, Jess Hartley, Forrest B. Marchinton, Deena McKinney, Ethan Skemp
発売年月日:2005年6月27日
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