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骰子回転劇場 日記

レビュー『City of the Damned: New Orleans』

これは何の本?

本書は『Vampire: The Requiem』の都市設定資料集で、米国ルイジアナ州のニューオーリンズ市をとりあげる。この街はV:tRの「デフォルト」舞台設定であり、基本ルールにも地理や歴史、勢力図、主要NPCといった最低限の情報が収録されてすぐに遊べるようになっている。

本書はその基本設定をさらに掘り下げ、これまで語られなかった水面下の陰謀、隠れた真相、さらなる謎、各NPCの内情や思惑といった追加情報と、それを使ったシナリオアイデアを提供する。サンプルシナリオが1本付属する。

Prelude: Coming Storm

まだ血族になったばかりの主人公が、人間時代への感傷から思わぬ大事件に巻きこまれる。読者を主人公に見立てて二人称で語りかけるという異色の幕開けだ。いきなりニューオーリンズ在住の幼童にされてしまうのも妙な気分だが、実はこれには理由がある( Appendix の項で後述)。

Introduction

「本書のNPC設定には、基本ルール掲載分とかならずしも合致しない箇所がある」と断り書きがある。これは基本ルールの記述が間違っているわけではなく、基本ルール掲載分は各NPCの「表向き」の設定であり、本書の設定はふつう知られていない「裏の顔」だそうだ。またプロット案やシナリオ導入例は囲み記事以外の部分にも多数埋もれているのでどんどん拾ってくれ、という注意書きも。

ニューオーリンズといえば避けて通れないのはブードゥー教とアン・ライスだが、p. 11 Resources(参考資料リスト)にはやはりブードゥー関連の資料が目立つ。アン・ライス関連では当然ながら映画『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』が。個人的には、本書の雰囲気はあの映画とはほど遠い気もするのだが。

Chapter One: A Look Back at the Big Easy

ニューオーリンズのヴァンパイア史。基本ルールにすでに詳細な年表が掲載済みだが、本章では個々の事件よりその裏で活躍した血族に注目し、時代背景の解説をまじえつつ主要NPCの活動の変遷をふりかえる(look back)。年表上の事件の真相がおしげもなく暴露されるため、プレイヤー専門の人が読んでしまうといささか興を削がれるかもしれない。特にp.22〜23は危険なのでいっそテープでも貼って袋綴じにすることをお勧めする。

本章がとりあげる時代は主に1850年以降。そのわずか150年少々の間に、少なからぬ長老が休眠や死亡や引退によって血族社会の重要ポストをしりぞいている。年若いPCにもパワーゲームのいちばん美味しいところに割りこむ余地は充分あるというわけだ。また、ライバル派閥同士がときに渋々ながら共同戦線を張ったり、第三勢力に煽られて無益な抗争をはじめたり、と対立構造そのものもめまぐるしく変化して飽きさせない。

ニューオーリンズの歴史を動かしてきた長老NPCたちは、けっして全知全能ではない。だまされもするし、失敗もする。知らないこともたくさんある。ときには血族にも説明がつかない超常現象に翻弄される。そうした失敗や偶然によっても歴史が形づくられているあたりがとてもリアルで、「大人のゲーム」らしい雰囲気だ。

Chapter Two: Points of Entry

ニューオーリンズの地理・治安・政治情勢・交通手段など、プレイヤー・キャラクターが実際にこの街に住む(または滞在する)にあたって気になる実用的な情報。

  • ニューオーリンズに行くにはどんな手段があるか。
  • 逃げだすとしたらどんなルートが考えられるか。
  • 市内の移動にはふつうどんな交通機関を使うんだろう。
  • 一年のうち観光客が多くなる時期はいつか。
  • この街の公子は誰で、どんな評判が知れわたっているか。
  • 三戒(The Traditions)の違反にはどれくらい厳しいか。
  • 他に守るべき慣習は何か。
  • もし掟破りが公子にばれたらどんな罰をくらうだろう。
  • 自分が属するコブナントは、この街では肩身が狭いだろうか、羽振りをきかせているだろうか。
  • この街に住むとしたら、どこが(血族にとって)住みよいか。
  • 好みのタイプの獲物はどの地区に行けば見つかるだろうか。
  • この街のエリュシオン(Elysium)はどこか。

と、この街を舞台にセッションを始めたら早晩プレイヤーから浴びせられそうな疑問に対する答えはだいたいここに揃っている。

他の都市でも使えそうな設定としては、「公園や広場を特定の血族が餌場として独占するのは禁止」というビダル公子の禁止令がある。マスカレードを侵さないかぎり、どんな血族でもここで狩りをしてかまわない。逆にいうと盛り場やもっと実入りのいい場所が独占欲の強い血族のドメインになっている可能性はおおいにあるわけで、PCをあまりガツガツさせず、かつ「もっと良いドメインが欲しい」という血族らしい動機を持たせられる仕掛けになっている。

Chapter Three: Games of the Elderst
Chapter Four: Wheels Within Wheels
Chapter Five: Working the Street

ここから3章は、ニューオーリンズ在住の血族NPCを一人ずつとりあげての解説だ。第3章がelder(長老)、第4章がancilla(若輩)、第5章がneonate(幼童)となる。

基本ルールの記述がPC向けの情報であるのに対し、本書の記述はST向けという位置づけ。ゆえに各NPCの秘めた野心、密かな悩み、後ろ暗い秘密、水面下の行動など、ふだんは表に出ない「裏設定」がつぎつぎと明らかになる。

長老7人、若輩9人、幼童9人、その全員が野心や秘密を隠しており、そのすべてに個性的な動機が設定されている。同じ権力を欲しがるのも、ある者は血族社会に公平な法の裁きをもたらしたいために、またある者はただ誰からも弾圧されずにすむように、とじつに様々なのだ。そのうえ誰もがその野心を実現するために着々と陰謀を進めている。

だが真に恐るべきは、それぞれの陰謀が互いに連動しているという点だ。互いにかみあいながら回転する歯車のように、長老の陰謀が若輩の陰謀に影響し、その若輩の陰謀は別の幼童の陰謀に影を落とす。一幼童が長老さえ欺く大ばくちを打ったりもする。幼童という小さな歯車が長老の大きな歯車を回し、そこに噛み合うすべての歯車を動かすこともあるのだ。

そのため、ひとつの事柄に関する記述があちこちに分散していて、ある長老の項ではっきり書かれていないので「ははあ、ここから先はSTの想像に任せるということか」と思ったら、ずっと後の幼童の項で意外な真相が明かされて「なんだってー!?」と驚愕する、ということもしばしばだ。

すべての影響を計算ずくで自殺を計画する血族が出てきたり、よかれと思って進めた計画が知らずに狂わされていたり、裏に思惑があるように見える行動がじつは壮大な狂気の産物だったり、傀儡を操る黒幕と見えた者が思わぬ第三勢力の傀儡だったり……読んでいてまったく飽きない。

幼童から権力への道は意外に近いことにも驚かされる。Antoine Savoyの右腕、Baron Cimitiereが頼みとする闇工作係、covenantに所属せず立場の弱い血族たちの声を代表するリーダー……いずれも幼童扱いなのだ。幼童キャラクターでは権力に無関心とか反動的とかいう態度が好まれる傾向があるが、ただ干渉されたくないだけでも力が必要なこの街では、そうそう無関心でもいられないのだろう。

Chapter Six: Storytelling

何層にも陰謀がからみあう本書の設定は、じっくり腰を据えて行うクロニクル(キャンペーンシナリオ)に最適だ。ストーリーテラー向けに、クロニクルを準備するにあたってはどこから手を着ければいいか、どんな対立構造が利用できるか、についての実践的な手引きになっている。また「PC全員モータル」「全員長老」などといった、ちょっとひねった前提での遊び方も紹介されている。

ここまでにも囲み記事でシナリオアイデアが多数出てくるが、この章は全体がシナリオアイデアの塊のようなものだ。なおp.124 In the Wake of the Storm は「ハリケーンによる洪水でニューオーリンズが水没したら」という、今となっては笑うに笑えないプロット例が載っている。ただし本書の出版は今年5月末のことで、ハリケーン・カトリーナの被害を予言したかのような内容になってしまったのは不幸な偶然の一致というよりほかない。

Appendix: The Dead Travel Fast

本書の設定を利用した1幕7場のシナリオ。11ページにわたるかなりのボリュームだ。ニューオーリンズに最近越してきた、またはこの街で〈抱擁〉されたばかりで、まだどの派閥にも与していない幼童キャラクターをPCに想定している。

PCは偶然、ある事件の唯一の目撃者となってしまい、街の支配権を巡って争う3つの派閥それぞれがPCたちを懐柔しようと接触してくる。他人の使い走りで事件に首を突っ込まされるのではなく、事件の鍵を握る中心人物として街のお歴々から注目を浴びるお膳立てのおかげで、かなり気分良く状況にはまりこんでもらえそうだ。

ニューオーリンズの3つの派閥とその違いをプレイヤー側に提示することと、PCたちの「居場所」をニューオーリンズに確立すること、この2点がシナリオの目的となっている。

基本的には一本道な展開だが、背後にある真相は本書にふさわしく何人もの陰謀と偶然が複雑にからみあったものだ。とかくややこしい陰謀ものはプレイヤーが謎解きに行き詰まって失敗しがちだが、このシナリオではその問題をうまく演出で処理している。「謎解きをやらせるとすぐ情報収集が行き詰まって……」というSTも、このシナリオなら対策は万全だ。「プレイヤーが自力で答えにたどりつけなくても、なんとなく自力で謎を解いたような達成感があじわえる」「戦闘しなくても戦闘したように盛りあがる」巧妙な仕掛けは、自作シナリオの参考にもなるだろう。

WWのシナリオとしてはかなり親切設計で、プレイヤーが脱線したり、やみくもに戦闘を仕掛けたりした場合の対処方法も書いてある。ただし、STは事前に登場するNPCの説明をよく読んで理解しておかないとかなりひどい目に遭う。

とてもよく練れたシナリオなのだが、難点がないわけではない。冒頭のプロローグが二人称になっているのは、実はこのシナリオの最初の場面、つまり重大事件を目撃するまでの経緯を説明するハンドアウトを兼ねているからなのだが……プロローグで「あなた」と呼ばれるPCが事件にかかわりあいになる動機は非常に感傷的な、ひいき目に見ても個人的なものなので、PCの人数が多い場合に「……で、なんで俺たちまでここにいるのよ?」と首をかしげる人が出るおそれがある。しかし個々に導入をロールプレイすると、そもそも最初の場面に持っていくことさえ困難なので、プロローグには適宜手を加えるつもりで準備したほうがよさそうだ。

装丁と挿絵

なぜかやたらとBaron Cimitiereのイラストが多い。他の連中の5倍ぐらいは登場している。シルクハットに丸眼鏡という特徴的な服装が絵にしやすいのだろうが……とりあえず男爵ファンの人は買って損なし。設定的にもおいしいとこ取りなので。

……で、買い?

本書はあくまで基本ルールの舞台設定の追加情報であり、全体にST向けの内容になっている。プレイヤーしかやらない、という人には読み物以上の価値はないだろう。ネタバレは嫌い、という人にはなおさらおすすめしない。

逆に、俺がSTだとか、身近にSTをしてくれる人がいないとかいう人は、迷わず買うべきだ。ただ複雑な設定をめぐらすだけでなく、それをどう活用していくか、その中に溶けこんでPCが活躍するにはどうしたらいいか、というところまで配慮がいきとどいた設定集であり、利用しないのはもったいない。俺はできあいの設定など頼らないぜ、という人でも、ネタとしていくらでも使い道がある。

この水準で凝りに凝った都市設定がそういくつも出るとは思えない。実際、他の都市設定が出るという噂も耳にしない。World of Darkness: Chicagoがあるじゃないか、という指摘もあろうが、あれはクロスオーバーを前提とした都市設定であり、V:tRのみで遊ぶものとはまた違ったゲームを意図していることだろう。

どうもJGCでの発表を又聞きするに、都市設定資料集は翻訳候補に入っていないという噂だが、本当だとしたらちょっと残念な話だ。

書誌情報

ストック・ナンバー:25200
定価:$26.99
ISBN:1-58846-248-X
ページ数:128
ディベロッパー:Justin Achilli, Mike Lee
執筆者:Ari Marmell, C. A. Suleiman
発売年月日:2005年5月30日
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World of Darkness に関する海外ニュースを Professor がときに適当な翻訳でお届け。名前が日記なのは骰子回転劇場・転の日記コーナーだった名残。実質上WoD2.0対応の回転劇場なので改名検討中。