『Changeling』クロニクルの雰囲気は、妖精らしく気まぐれにくるくる変わる場合もあるだろう。だが根底に流れるムードは「甘美な毒」である。チェンジリングが出入りする見えざる世界は、不思議に満ちていると同時に危険や欺瞞もはらんでいる。美しい妖精はしばしば邪悪さを剥き出しにする。魅惑に満ちた〈垣根/The Hedge〉からはまさかの友も思わぬ敵も現れる。チェンジリングが操る魔法は奇跡のような効き目をもたらすが、不条理な反動や代償も伴う。そして、〈異人/The Others〉を恐れ、裏切りに怯え、やむなく人を欺きつづけることに傷つきながらもなお、チェンジリングたちは激情のまばゆさに惹きつけられ、妖精魔法の鮮やかな彩りを嘆賞するのだ。甘美と毒気、どちらを欠いても『Changeling』の世界は成り立たない。毒気がなくては、妖精は牙を抜かれたも同然。ヴィクトリア朝時代の寓話が子供たちに、世界が完璧なものではないなどと夢にも思わせまいと抱かせようとした脆い幻想のように、弱々しく薄っぺらい存在になってしまうだろう。だが甘美さがなくては、この世界は萎びた無価値な場所、斜に構えた虚無主義者の目に映る宇宙と化してしまい、本来の魅力を失ってしまう。恐怖あるところには奇跡もまたあり、甘美あるところには狂気もまた存在する。
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『Changeling』の根底を流れる主題は「家への帰還」だ。ある者にとって、それは盗みとられた人生をできるかぎり取り戻すことを意味するかもしれない。ある者にとっては〈失われし者〉の Courts と freeholds の合間に新たな安住の地を見いだすことを意味するかもしれない。またある者はあわよくば人間社会と妖精社会に二股をかけて、一挙両得を狙うかもしれない。数知れぬfreeholdの陰謀と野望が絡みあう網の目さえも、元をたどれば一握りのチェンジリングが「我が家」と呼ぶに足る場所を見いだそうとした結果かもしれない。我が家をめざすチェンジリングの旅路は決して平坦ではなく、その道中に出会う数々の試練が一つ一つのストーリーを、ひいてはクロニクルを織りなしていく。誰が敵で、誰が味方か。自分が本当に求めているものとは、理想の我が家とは何なのか。それを手に入れるためには、いかなる代償を支払わねばならないのか。
本ゲームのもう一つの主題は、妖精の本質を反映している。一般に「妖精」と見なされる存在にまつわる神話伝説には——その存在を妖精と呼べるかどうかの判断基準にはならないが——ある独特な特徴がある。必ずといっていいほど欺瞞や不実がとりざたされる点だ。妖精が姿を変えて人間を化かしたり、人間の子を妖精の子とすり替えたり、旅人を惑わせて道に迷わせたりする妖精物語もある。その一方で、人間が契約を破って妖精を裏切る物語もある。人間側は往々にして契約が存在した事実すら知らず、それでいてその「約束破り」のために妖精から厳しい罰を受けるのだ。この「欺瞞と不実」もまた『Changeling』に通底する主題となる。チェンジリングは、敵の目を避けるためにも、友人や家族の前では姿を偽らざるをえない。チェンジリング同士の絆を固め、相手を信用すべきかどうかを判断する唯一のよすがは、契約や誓約である。チェンジリングの最大の強みは、術策を弄して自分に有利な状況に敵を陥れられるところにあり、最大の弱みは、誓約を立てなければならない状況に追いこまれると、文字通り自分で自分を束縛してしまうところである。この点において、チェンジリングはまさに民間伝承の妖精であり、チェンジリングの物語にも奇怪に馴染み深い「おとぎ話」が影を落とすことになる。
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