睡眠薬を切らしてしまった。せめて目を休めようと布団に潜るが、当然ながら寝つけない。退屈だ。我慢して目をつぶっていたら、瞼の裏にエイリアンみたいなぐちゃぐちゃした幻影がちらついて怖くなってきた。おまけに11月の布団の中と思えないほど寒い。
こんな事態ははじめてだ。部屋の中に幽霊でもいるのか。いくら地球温暖化が騒がれている昨今とはいえ出てくる時期をはなはだしく間違っているのではないだろうか。いや、前に包丁を投げられた時でさえ姿は見えなかった、いまさら見えるはずがない。だとしたらこのグロい物体は何なのだろう。考えだすと幽的のほうがましな気がしてきた。
とりあえず気を紛らわせようとiPodで音楽を聴く。せめてもの気休めにレクイエムを選んだ。
モーツァルトのレクイエムが流れた。明るくて歯切れがいい。もう夜が明けたんじゃないかという気さえする。丑三つ時に聞く音楽ではないと思った。鎮魂歌のくせに。
ヴェルディのレクイエムが流れた。フォルティッシモ連打で飛び起きた。最後の審判の日に死人を叩き起こすにはもってこいだが、私は寝たいのだ。
フォーレのレクイエムにした。
エイリアンみたいなものは洗われるように消えていった。
それでようやく明け方まで少しうとうとした。
あとで調べたらフォーレのレクイエムは初演当初「死の恐ろしさが表現されていない」と文句を言われたらしい。日本では鎮魂歌と訳されているが、鎮めるより怖がらせるほうが目的だったのか。
安眠に向かないわけである。
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